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なぜ必死になっているのか自分でもわからない。
ただ、助けなきゃと、それ以外頭にはなく、慌てていた。
そう慌てていたのだ。
濡れた階段で足が滑った。
持っていた傘が手から離れた。
スローモーションのように感じた。
私は登っていた長階段から転げ落ちていた。
全身が、頭が激しく痛い。
地面に横たわっている私の体を自分の意思で起こせない。
差していた傘が傍に転がっている。手を伸ばそうと思ってもピクリとも手が動かない。
水たまりの中、倒れた黒猫みたいに、私の周りの水たまりが赤く滲んでいる。
――――さっきの黒猫は死んだのかな。
私もここで、誰にも気づかれず、このまま死んじゃうのかな。
掠れていく視界、薄れていく意識、地面に横たわる私の体に落ちる雨が、どんどん体温を奪って寒くて堪らない。
カチカチと歯が震える。
これは、消えてしまいたいと願った罰なんだろうか。
目の前が真っ暗だ。
だけど、耳に入る雨音に混じって、微かに誰かの足音が聞こえる気がする。
誰かがいる。
力を振り絞り、震える唇を私は動かす。
お願い。死にたくない。
どうか私に気づいて――――。
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