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◇
閉じていた重たい瞼をハッと開くと、真っ白な天井が目に飛び込み、同時に頭が割れるような痛みが襲う。
「痛っ」
私は喘ぐように頭を抑えながら、上半身を起こした。
辺を見渡すと、窓も家具も何もない真っ白な部屋のような場所に私はいる。
自分がどうしてここにいるのか、思い出そうとするとズキッと頭が刺すように痛む。
断片的に、ぼんやりとした記憶しか頭に浮かばない。
ここは一体――――
「あ~あ~、こんなとこにいたのかよ」
突然、背後から男の声がして私は驚きながら振り返った。
私の背後にいつの間にか、三十代くらいの黒いスーツを少し着崩した男が立っていた。
タレ目の瞳、かぶっている黒いハットから茶色いくせっ毛の髪が覗いている。
「早く戻れ、自分の体に」
男は座っている私を見下ろし、めんどくさそうな口調でそう言う。
「……自分の体?」
男がなんの話をしているのか全く分からず、私はポカンとして男を見上げた。
そんな私をみて、男のタレ目が大きく開く。
「……嘘だろ、おい」
男は膝を付くようにして身をかがめると、座っている私に視線を合わせた。
「名前は?」
「え?」
「なーまーえ」
ジワリと心に不安が現れる。
「私は――――」
思い出せない。自分の名前を。
黙り込んだ私をみて、男はニッコリと微笑んだ。
「俺とは会わなかった事にしてくれ」
そう言うと、すくっと立ち上がり、そそくさと立ち去ろうとする。
「え、ちょっと待って!」
私は慌てて男のスーツの裾を掴んだ。
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