TOKEN

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「感情は肉体的なもので苦痛は観念的なものなんだよ」  ケンジはそう悲しげに言った、と一瞬思いすぐ打ち消した。悲しみはどちらだ。私は私の感情をケンジの代わりに咀嚼しようと思いまた当惑という感情を分析する。分析するとあらゆる感情は正体不明になる。  ケンジに挨拶を言って別れ、歩きながらヤツヤナギさんに電話をしたくなった。これも依存か。 「で、ケンジくんはどうなの」 「苦しいって」 「支えられる?」 「わからない」 「じゃあ見捨てる?」 「そういう表現は……」 「別れる?」 「できない」 「じゃあ向き合うしかない」 「わかってる」  電話を切ってしまうとまた歩く。自分の二本の足を前後に動かしながらこの筋肉の動きが感情に繋がっていく経路がやはりどうしても実感できない。    ケンジのアパートから私のアパートへは近い。ケンジの会社の寮の満了期限が切れた時に私の近くに借りた。別に何かそれは何か付き合いを前進させようなどというものではなく、ただたまたま安い物件があったからである。それぐらいのことを浮いた話といちいち問題にする人たちと私たちは明確に違う世界の人々だった。     
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