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ここにあるはずがない。いくら混乱していたからといって、こんな不気味なものをわざわざ拾って持ち帰るわけがない。どう考えても、ここにある合理的な理由は浮かばなかった。
ゾッとするような感覚に全身の皮膚が粟立つ。
彼女は引出しからスマホをつかみ出すと、窓を開けて思いきり遠くへ投げた。
それからダーンと勢いよく窓を閉め、カーテンを引き、ベッドに潜りこむ。小刻みに震える体を毛布でくるみ、暖かく柔らかな感触にいくらか安心を覚えた。
このまま少し休もうか……と枕を引き寄せる。ふと、固いものに手が触れ、彼女はビクッとなった。おそるおそる毛布をめくって見る。
そこで目にしたのは、赤い画面が光っている汚れたスマホ。
彼女は悲鳴を上げてベッドから転がり落ちた。
ーーこれはなに?
混乱と恐怖で動けなくなる。
視線が赤い色に吸い寄せられていく……怖いのに目が離せない。そしてついに彼女は、そのメッセージを見てしまった。
そして契約成立。
彼女は、このタイミングでソレを手に入れた幸運に感謝する。
画面に指で綴る彼女の第一の願い。
「彼の命を助けて」
そして彼女は目を閉じた。
見えないけれど、感じる気配……床に置いたソレから、禍々しいなにかが立ち上り触手を伸ばしてくる。
彼女の体表を探るように蠢いていた触手は、へそのあたりで止まった。
一瞬の間ののち、それは彼女の腹からぬるりと内側に侵入する。
彼女は凍りつくような戦慄に身を震わせ、あまりの恐怖に叫ぶこともできない。
触手が、自分のコアな部分をめざして体内で蠢いているのがわかる。そこに近づくにつれて言い様のない恐怖も高まる。
なにがこんなに恐いの……理由はわからないのに、恐怖という原初の感情だけがすさまじい勢いで彼女を侵食していった。
やがて。
それは目的のものを発見する。
するりと巻きついて、愛しそうに先っちょで撫でまわす。
その瞬間、体中の毛穴すべてがブワッと開いたような感覚……鳥肌なんて可愛らしいものとは比較にならない程おぞましい不快感に襲われ、彼女は気絶した。
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