【 18 】

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 蒼馬がむくれたように、白縫の体をぎゅぎゅうと締めつけてくる。相変わらず蒼馬は蒋子を嫌いなようだ。真面目一辺倒な蒼馬には、蒋子の浮き草のような性格は合わないのだろう。 「気づいていたのか? 父上の近況を伺っていたのだ。わざわざこうしてお越しくださるのだから、大目に見てくれても……わっ!」  言い終えるよりも先に、白縫は畳の上に押し倒される。素早く体勢を変えた蒼馬が覆い被さってきた。見下ろす黒い瞳の奥に、めらめらとした炎のようなものが見え隠れしている。 「もしかして、怒っているのか?」  父の様子を知らせてくれる蒋子になぜそこまでムキになるのか、白縫にはさっぱりわからない。 「白縫。お前は俺の正室になる男なのだぞ。この部屋に男と密会して、俺が平気だと思っているのか?」  目元を赤く染め、恨みがましい目で睨む蒼馬は、吐き捨てるように言う。なんだかよくわからないけれど、これ以上、蒼馬の怒りが酷くなるのを何とかしたかった。白縫はそっと伸ばした手を、蒼馬の強ばった頬に添えた。 「私がこの世で一番好きなのは、お前なのだ。そのように怒るな」  甘えた声で蒼馬の首に腕を回すと、「この俺を翻弄しおって」と複雑そうな顔で睨まれる。 「お前は俺だけのものではないのだぞ。領民はお前のことを、龍神が遣わした神だと申して慕っておる。正室になるというのは、伊那山すべてを背負うということなのだ」 「私は神ではないぞ」  出城で戦った武将らが帰還して、出城で見た白い龍の奇跡を領民に語ったのだろう。それは人の口を介するたびに尾ひれがつき、白縫を神格化していったのだ。
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