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 畳敷きの豪華な広い座敷の真ん中に座らされた白縫は、初めて見る男達に品定めするみたいにじろじろ眺められて、居心地の悪さを感じていた。  一段高くなっている正面の壁際には、大きく羽根を広げた鷹の絵が描かれた屏風が置かれている。勇ましい鷹を背負うような格好で、脇息にもたれる蒼馬は嘲るような目で白縫を無遠慮に眺めていた。  見世物のように連れて来られた白縫はおとなしく座っているが、腹の中は煮えくり返っている。先日受けた蛮行に対して、蒼馬は何の謝罪もない。それどころか座敷牢に閉じ込めて、いったい何を考えているのだろう。龍の姿に戻れば、ただでは済まさない。 「見れば見るほど美しいですね。兄上が夢中になられるのも頷ける」 「貞信(さだのぶ)様。夢中などと滅相もないことを申されては困ります。この者は他国の刺客にございます。いずれ死罪となる身。けじめをつけた物言いを心がけてくださらねば、家臣に対して示しがつきませぬ」 「相変わらず硬いな、佳久(よしひさ)は。兄上が気に入っているんだから、刺客でも咎人でもいいじゃないか」  右に座っている男は小田切貞信(おだぎりさだのぶ)。蒼馬の弟だ。蒼馬よりも若く、邪気のない目で白縫を眺めている。その向かいに座るのは前田佳久(まえだよしひさ)。蒼馬の側近だ。槍の使い手であり、今回の戦で大きな手柄を立てたらしい。今夜の宴は佳久を労うためのものだ。 「堅苦しいことばかり言っているから、二十八にもなって、未だに嫁が来ないんじゃないの? 跡継ぎはまだかー、まだかーって、多岐が首を長くして待ってるよ」  酔っているのか、くすくすと笑う貞信は、手にしたままの盃を口にした。蒼馬の弟であるはずの貞信は、後の二人と微妙に雰囲気が違う。武将としての威厳というか、言葉遣いもそうだけれど――。 「は、母は関係ございませぬ! 拙者のことは捨て置いて、頂きとう、ござる……」  余程突っ込まれたくない話題らしく、尻すぼみに言った佳久は大柄な体を縮こませた。 「佳久。今宵の席はお前のために用意したのだぞ。久々に三人揃ったのだ、硬い話はなしにしろ。それより、いっこうに飲んでおらぬではないか。さあ、飲め飲め」  はははと笑う蒼馬は手酌で並々と注いだ酒を、ぐいと飲んだ。こんな上機嫌の彼を見るのは初めてだ。戦に勝利したことがよほど嬉しかったのだろう。
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