【 6 】

7/8
246人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
 途方に暮れたように、ぼんやりと湖を眺めていた白縫の肩を、蒼馬がぐいと強引に振り向かせた。 「何を考えている。まだ逃げようなどと考えているのか?」  問い詰める蒼馬の物言いに、白縫はかちんときた。何を考えようと勝手である。考えることは自由なはず。頭の中まで支配されたくない。乗せられた手を払いのけ、蒼馬から数歩後ずさった。 「蒼馬には関係ない」  睨みつけて言い放つと、すかさず距離を詰めた蒼馬に腕を捕られる。責め立てるような険しい彼の視線に白縫はますます腹が立って、その手を振り払おうともがく。 「なぜお前はいつもいつも俺に逆らう! なぜ言いなりにならぬ!」  逃げようとする白縫は腕を掴まれたまま、蒼馬にぐいぐい押される。その動きに合わせて白縫は後退する。行き場をなくした白縫の体は背後の木に押しつけられた。 「お前が大嫌いだと、何度も申した!」  あれだけのことをしておいて、自分は嫌われていないと思っているのだからおめでたい男だ。憎しみを込めた言葉をぶつけても、相手はまだ理解できていない。 「俺が望めば何でも手に入った。伊那山城を守りながら、居城としての天守閣も築いた。手に入らぬものなどない」  蒼馬は自信に満ちた顔で言った。彼は、自分が望めばすべてが手に入ると思っている。近隣諸国と戦を起こして領地を奪い、何もかも手に入れたらこの先どうするつもりなのだろう。  呆れたような目で見上げる白縫の顔の横に、蒼馬がばん、と手をついた。 「なのになぜ、お前は意のままにならぬ。側室にしたのに、なぜ逆らう」 「私は蒼馬の望む側室になった。それがお前の望みなら満足したはずだ。自由も貞操も奪われて、私はもう何も持っていない。これ以上望むな……っ」  わっと叫んだ言葉を封じるように、蒼馬が唇を塞いだ。怒りのまま噛みつくみたいに口づけられ、引き千切られるんじゃないかと思うほど舌を吸われる。 「ん、んーっ……、んっ」  唾液を絡ませた水音を立てて、口の中を蒼馬の舌に蹂躙される。濃厚で激しい口づけに、頭の中が白く濁っていく。  こんな男、嫌いなのに。触れられるだけで神経が逆なでされるくらいなのに、白縫は自分が興奮していくのがわかる。 (嫌だ!)  自分が自分でなくなりそうな感覚に怯えた白縫は、口づけをほどこうと思い切り噛みついた。 「つ……っ」
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!