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貞信が白い包み紙を広げて見せると、小さくて白くてごつごつとした丸い物が入っている。大坂から取り寄せた金平糖という菓子らしい。都への献上品なのだが、少しだけですが、お裾分けですと、こうして貞信が持ってきてくれた。
口に放り込んだ瞬間、それはうっとりするほど甘く、舌の上でふわりと溶けた。こんなもの、食べたことない。
どう? と感想が知りたそうな顔で問われ、悔しいけれど白縫は渋々「美味しい」と答えた。
貞信は、ときたまこうして白縫を訪ねて来る。伊那山城には慣れましたか? 眺めのいい場所を教えますよ。美しい布が手に入ったので着物をこしらえてください。様々な口実を作っては白縫の機嫌を取りに来る。
今日はどんな話かなと期待していると、貞信は遠慮も何もなく、真っ直ぐに問うてきた。
「なぜ、兄上を避けられるのですか?」
「なぜ? それをわざわざ問うのか?」
馬鹿馬鹿しい問いかけに、質問を質問で返した。
神聖な立場の自分を乱暴し、側室に貶め、城に閉じ込める男を避けないほうがおかしい。誰にでもわかりきったことを、今更とくとくと説明しても、この城の住人は一人として理解しようとしない。
「私はお前とは違い、蒼馬と心を通わせる理由がない。貞信は兄思いでよい男だと思うが、それだけは聞き入れることはできぬ」
「白縫殿にそこまで言われると、返す言葉もありません」
そう言って貞信はにっこりと笑ったが、どこか寂しげだった。そうして何かを決意したかのように、「聞いて頂きたいことがあります」と続ける。
「俺と兄上とは、母が違うんです。いわゆる庶子というやつです」
「え」
思いもしない貞信の告白に、白縫は呆けたように口を半開きにさせた。その物言いから、側室の子でもないことを仄めかしている。
「前のお館様が亡くなられて、喪が明けた三年前に兄上に引き取られました。それまでは東の山で猟師をやっていたのですよ」
屈託なく笑う貞信に、なんと言っていいのかわからず、白縫は曖昧に笑った。
「跡継ぎ問題が起こるからと、城内には殺してしまえと言う声もあったらしいですが、兄上はそれらをことごとく無視して俺を引き取ってくださった。武将としての礼儀作法から戦のやり方、漢詩や連歌なども教えていただきました。それまで山猿みたいな生活をしていた俺を、兄上はお見捨てにはなさらなかった」
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