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一気に捲し立てた貞信はそこではにかんだように笑い、照れ隠しのように金平糖を一つ摘まんで口に入れた。
大陸の王家でも跡継ぎ問題は存在し、多くの血が流れたのを何度も見てきた。日の本の大名家も、それと似たことがあるのだろう。
城内で産まれた側室の子ならまだしも、武家のなんたるかも知らない庶子を、言葉巧みに唆すことは容易い。権力のある小ずるい家臣が庶子を担ぎ上げ、己が実権を握らんとも限らない。そう言った騒動が起こらないよう、貞信を人知れず抹殺しようと考えたのだろう。白縫には理解に苦しむことだけれど。
「だから、そんなお優しい兄上が避けられるなど、おかしいと思うのです」
「なぜ私に話を振る。お前の生い立ちと私は関係ないだろう」
加えて言うと、蒼馬は少しも優しくない。
「正室も側室も娶ろうとはなさらず、遊女を抱こうともなされない。何か密かに病をかかえておいでではと、家臣一同、心配していたのです。それがいきなり側室です。兄上には幸せになっていただきたいと思うのが普通でしょう? 兄上とは色々と行き違いがあったかもしれませんが、綺麗さっぱり忘れて兄上の力になっていただけませんか?」
「断る」
「え、即答ですか?」
困ったなあ、と言いながら、さほど困った様子でもない貞信は頭をぽりぽりと掻いた。
蒼馬の女性関係など知ったことではない。小田切家の問題を白縫に押しつけるなと、怒鳴りつけてやりたいくらいだ。しかもあの蛮行を行き違い? そんな簡単な言葉で片づけるな!
「力になれと言うのなら、小姓にすればよい」
「白縫殿、それは無理です。小姓には命をかけて城主をお守りする役目があります。戦に出なければなりませんし、時には伝令役として戦場を突き抜けることもあります。白縫殿にそれができるとは思えません」
「この私が非力だと言いたいのか!」
貞信の無礼な物言いに、白縫はかっとなって目を剥いた。白縫の激高にも貞信は変わらず涼しい顔で、静かに首を振る。
「そうではありません。兄上は、白縫殿に守られたいとは思っておられないと言いたいのです」
そう言うと貞信は「すっかり長居をしました」と立ち上がる。入り口でそれまで口を挟まず静かに座っていた多岐が、見計らったようにすっと襖を開けた。くるりと貞信が振り返る。
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