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 あっさりと首を切られるのならまだましだ。大陸で見た処刑は残酷だった。きっと自分もあんなふうに辱めを受け、殺されるのだ。  白縫を足蹴にした威圧的な態度の男の顔が、閉じた瞼の裏でちらつく。 「あんな男になど……!」  きつく噛みしめた拍子に、ぎり、と奥歯が鳴る。嫌だ。人間になど殺されたくない。  龍の姿なら、死んでも再び龍として生まれ変わることができる。けれど人間の姿のまま死んでしまった龍ははたしてどうなのか、白縫にはわからない。  嫌だ。父に会えないまま死ぬのは嫌だ。人間の姿のまま死ぬのなんて嫌だ。 「そうだ……(ふみ)……父上から預かった文が、ない……」  はっとして辺りを見回すけれど、粗末な板張りの床にはそれらしきものは見当たらない。格子に這いつくばって向こう側を見回したけれど、どこにも見当たらなかった。 「どうしよう……」  人間の姿に変わってしまい、激しく動揺しているというのに、大事な文までなくしてしまうとは。  もしかしたら、地下牢の外にあるかもしれない。こんなところでしょげてなんかいられない。 「この私がこのようなところで、惨めに死ぬ訳にはいかぬ。文を見つけて蓬莱山へ向かわねば」  所詮、下等な生き物が作った牢だ。見た目に反して、粗雑な造りに違いない。どこかに隙があるはずだ。痛む体を押して白縫は床を這いながら、入口の格子や壁を見回した。あちこち探してはまた同じところを見回す。  何度も同じことをを繰り返し、脆弱な部分を探し回ったが、どこも強固で蟻の這い出る隙もない。このままでは朝を迎え、白縫は処刑されてしまう。  悔しい。あの男の思い通りになると思うと、胸が張り裂けそうなどの怒りを覚える。 「絶対にここから逃げ出してみせる」  不安、怒り、恐怖、屈辱と言った様々な感情が溢れ出し、胸の中で荒れ狂う。そうして身の内の感情に似た松明の炎を、白縫は睨みつけた。
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