【 8 】

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「お前があのように欲しいと駄々を捏ねたのを初めて見た。馬鹿にしたのではない、嬉しかったのだ。お前の口からはいつもつれない言葉しか聞けなかったからな」  囁く声に、慈しむような色が滲んでいる。まるで愛しい人に告げているようで、聞き慣れない声音に体温が上がっていく。鬱陶しいこの腕をはね除けたいのに、その強さになぜか胸がざわつく。 「勘違いするな……蒼馬が嫌いだと、いつも、言って、る……」  息が苦しくて、言葉が切れ切れになる。語尾のところで喉が変なふうにひくりと鳴って、恥ずかしさによけい顔が熱くなった。 (き、気のせいだ。これはきっと……そう、怒りで体がおかしくなっただけだ)  そうとわかってしまえば、なんてことはない。蒼馬を振り切って、自分の部屋に逃げ込めばいいだけのこと。部屋には多岐もいるし、侍女もいる。いくら蒼馬でも、まさかそんな場所で無体なことはしないだろう。 「いいかげんに……っ」  蒼馬の拘束を解こうと振り返った瞬間――自分を見つめる黒い瞳の深さに、白縫は言葉を失った。体を反転させられて、気づいた時には唇が重なっていた。  はっとした白縫は押しのけようと蒼馬の胸を叩く。蒼馬は抗おうとする白縫の頭を押さえ、かぶりつくように口づけした。 「ん、う……っ」  口づけを解こうと顔を振ってみせても、頭を押さえつけられていて身動きできない。ならばと蒼馬の胸をどんなに叩いても、分厚い胸板はびくともしない。白縫の腰に絡まる太い腕からも逃れられそうになかった。  唇を塞がれたまま、蒼馬の舌が唇の端から潜り込んでくる。ここを開けろと言わんばかりに、固く閉ざした歯列を艶めかしい動きで擦りつけられる。腰にぞくぞくした痺れが走り、思わず口を開けた。 「はぁ、は……んっ」  それを見逃さず、舌が口内にねじ込まれ、白縫の舌や口蓋を好き放題に嬲られ、貪るように唇を吸われた。舌を動かすたび、二人の混じり合った唾液でくちゅくちゅといやらしい音を立てる。思考を奪うような激しい口づけに、抵抗できない。息は荒くなり、鼓動は乱れ、あっけなく理性が崩れていった。 「ん、んっ、んんぅ……」  嬲られてばかりいた舌は競うように蒼馬の舌に絡みつく。背中を優しく撫でられて、もう何が何だかわからなくなっていた。 「お前が欲しい。丸ごと全部、俺のものにしたい」
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