【 2 】

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【 2 】

「このようなむさ苦しい地下牢に、お館様直々においでになるとは……」 「俺に構うな」  すぐ側で話し声が聞こえる。 「ん……」  ゆっくりと覚醒した白縫は瞼を半分開けた。雷に打たれた衝撃で意識も視界もはっきりしない。目の前には薄汚れた床と太い格子。見知らぬ室内に胸がざわつくけれど、身じろぎするたび激痛が走り、起き上がることができなかった。  がちりと錠の外れる音がして、続いて床板を鳴らして誰かが近寄ってくる。痛みを堪えて顔を上げるとお館様と呼ばれた男の顔が、松明の明りに浮かび上がった。 (え)  想像していた以上に男は若かった。お館様と呼ばれていることから、彼は城主である。にしては随分と若い。しかも自分を見据える容貌は、見惚れるほどに美しかった。  太い眉のすぐ下にあるのはすっきりと伸びた切れ長の目。この国の者としてはいささか高い鼻梁と引き結んだ薄い唇、それに頬から顎にかけての力強い線。長い黒髪を後ろで一つに束ねた、凛とした姿の若武者だ。 「白い龍だと言っておったのに、これは人の子ではないか!」  お館様と呼ばれた若い男の怒号に、彼の側にいる男が息を飲む気配がした。 「いや……あのう……お言葉ですがお館様、私は確かにこの目で見たのでございます。庭の中ほどに、白い龍が倒れているのを……他にも何人か兵が見ております」 「言い訳はよい! 俺は事実しか信じぬ。人の子を龍だなどとたばかりおって。戯け者が!!」  若い男の怒声に、ぴりぴりとした痺れが白縫の肌に走った。 「ほう……白い髪に伊那湖を思わせる色合いの瞳か……」  大きな男の手が乱雑に白縫の顎を捉えた。抵抗しようと試みるものの、動くなと強く握られた。 「陶器のように白く滑らかな肌をしておる。年の頃は十七、八と言ったところだろう。見たこともない容姿に、ひらひらした白い着物も日の本のものではないな……。美しい姿で家臣を騙そうとは、小童のくせに小賢しいやつめ」  言いざま男が白縫を軽く足蹴にした。衣の裾がはだけ、それを見た男は「やはり人の子だな」と吐き捨てるように言う。 「隣国が差し向けた刺客かもしれぬ。警備が厳重なこの城に侵入するとはただ者ではあるまい」 「ではお館様、朝になってから審議いたします」 「よい。そのようなまどろっこしいことはいらぬ。明朝、こいつの首を()ねよ」  
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