【 7 】

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【 7 】

 蒼馬と伊那湖に出掛けてから、家臣らの白縫を見る目が明らかに変わった。  白縫を世話する多岐は勿論のこと、女中までもが親しみを込めた目で見る。馬の世話や警備、武具の整備などをしている家臣らが白縫の姿を見つけると、敬意を表すように膝をつき、頭を垂れる。城内の誰もが、白縫と蒼馬がこの先も仲睦まじく過ごすようにと願っている。  なくした(ふみ)を探すため、城内を散策していても、どこからか家臣が現れて「ご案内いたします」と声をかけられる。白縫の目立つ容姿では致し方ないのかもしれないが、ならばいっそ笠と蓑でも被って姿を隠そうかと真剣に考えてしまう。  連日探していた文は、白縫が倒れていたという天守閣が見下ろす庭の隅に落ちていた。これで父に顔向けができる。文を隠している二階厨子を気にしつつ、白縫はうふふと気づかれないように微笑んだ。 「どうされましたか、白縫殿」  声をかけられて、白縫ははっとして我に返った。油断しているとすぐにこうだ。いつも気を張っているから疲れて仕方ない。悟られないよう、白縫は繕うように慌てて言った。 「いや……何でもない……」  笑みを浮かべたまま首を傾げた貞信が、白縫の顔を覗き込んでいる。食べないんですか、と問われて漆器に入れられた菓子を一つ摘んだ。  午後になって貞信が、珍しいものが手に入ったので一緒に食べませんかと、やって来た。
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