【 8 】

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【 8 】

 天守閣のすぐ脇にある庭では、甲冑を纏った武将らが鍛錬に励んでいる。それぞれ木でできた刀を持って振りの練習をしたり、その隣では武将同士が斬り合いの練習をしていた。戦場でもないのに甲冑を身につけているのは、その重さに負けない体力を養うためだとか。  白縫は木立の下に設えた縁台に腰掛け、夏の名残のような日差しを避けていた。この縁台を作ったのは、城の見回りをしている家臣らだ。足の怪我が癒えたばかりの頃、白縫を気遣って彼らが作ってくれたのだ。  昨日、蒋子が訪ねて来てくれたおかげで気分がいい。力強い味方の存在に、心が鍛錬に励む武将らの姿も、白縫の脱出を喜んでいるように見える。  振りの練習を監督していた佳久が、白縫に気づいて近づいて来た。 「ご見学ですか? 白縫様がいらっしゃると、武将達も一段と精が出ます」  相変わらずにこりともせず、佳久が言う。よく見れば男前なのだが、彼の巨体は威圧感たっぷりで、そこに険しい表情が加わると、鬱陶しいことこの上ない。  槍の名手と謳われた武将が、あんな極悪非道な蒼馬に忠誠を誓うだなんて――。白縫はついつい、憎まれ口を叩きたくなった。     
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