【 3 】

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【 3 】

 昨晩の嵐が嘘のように、すっきりとした青空が広がっている。穏やかな日差しに波打つ長い髪が眩しいほどにきらめく。まだ暑さの残る早朝の風が、白縫が纏っている白い衣の裾を揺らした。昨晩、雷に打たれた傷のため、歩けない白縫は兵士らに引き摺られるようにして刑場に連れてこられた。  両腕は後ろで括られ、屈辱的な扱いに腹が立つものの、元の姿に戻れないのではどうしようもなかった。泣いて許しを乞うだとか、とことん抵抗して見せるだとか、龍神の子としての矜持がそれを許さない。人間などにけして涙を見せはしないと、白縫は奥歯をきつく噛みしめて、きっ、と正面を見据えた。  地下牢の入り口のすぐ脇にあるここは、綺麗に洗い流されているとはいえ、地面に染みついた血の臭いが辺りに充満している。鼻をつく嫌な臭いに白縫は顔を顰めた。 「そこに跪け」  兵士に命令されて、白縫は砂利の上に乱暴に座らされた。そうして後ろの兵士に肩を思い切り押さえつけられ、お辞儀をするような格好で頭を下げる。はらはらと長い髪が地面に零れ落ち、うなじがあらわになる。背後で、すら、と刀が抜かれる音がした。 (父上……申し訳ございません)  こんなところで、こんな扱いを受けるはめになるなんて。白縫は自分の不甲斐なさに唇を噛んだ。せめて父の名に恥じないよう、最期を迎えたい――。  覚悟したようにぎゅっと瞼を閉じたその時、取り囲んでいた兵士らが急に騒ぎ始めた。 「お館様……なぜ、このような場所に……」  刀を抜いた兵士が直ぐさまそれを鞘に収めると、慌てて片膝をついた。 「最後にもう一度、そいつの顔を見ておこうと思ってな。刺客に関心はないが、異国の者を遣わすなど珍しいからな」  近寄りながら、平坦な声音でそう言った男は白縫の正面でしゃがみ込む。睨みつける白縫の細い顎を、大きな手がぐっと掴んだ。黒い瞳が探るように、白縫の青い瞳を覗き込む。  こちらだって、お前の顔を見てやる。死んだ後も、お前の顔だけはけして忘れないように。  視線を逸らさずに睨みつけていると、男が薄く笑った。 「なんと気の強い。姿は美しくても、さすがは刺客と言ったところか」 「私は刺客ではない!」 「城内に忍び込んでおいて、そのような言い訳が通用すると思ってるのか?」
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