海底の歌姫

1/27
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ

海底の歌姫

 私が歌い終えると同時にピアノの演奏もやむ。 「(りつ)、最近、歌い方が雑になってないか?」  兄の(そう)の言葉に私は、汗を拭いながら言う。 「えー? そんなことないよー。もし雑に歌ってたとしても溢れる才能がカバーしてくれるって」  私は胸をはって答えると、踊るように自宅の防音室から出た。  早く自分の歌声をアップロードしたい!   みんなに聞いてほしい!  はやる気持ちを抑えきれず、一段飛ばしで階段を駆け上がり、自室に戻る。  動画サイトにアップロードし終えると、私はパソコンの画面から目を離す。  カーテンの隙間から見えるのは薄闇に染まった空。 「学校から帰ってきて、ずっと防音室に篭ってたからなあ」  私はそう呟いて、ベッドに寝転ぶ。  部屋が――むしろ家が私以外に誰もいないかのように静まり返っているのは両親が仕事なのと、兄がまだ防音室にいるからだ。  音楽家の両親のおかげで自由に防音室がつかえる環境があるのは、恵まれていたと思う。  だからこそ、『海底の歌姫』が生まれたと言っても過言ではない。もちろん理由はそれだけじゃないけど。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!