第4章 もう一度ヤマト~100年の愛  

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陽も射さない狭い部屋がふたりの愛の巣だった。 それでも身分相応だとチャコは思っている。 ヤマトが同胞ワモンの家を出たことは自分への愛の証だと信じる。 正直、彼に最も近かった存在に嫉妬していた。 永遠の鬼ごっこへの終止符に興奮を抑えきれないチャコだった。 帰りを待ちながら、小さなものたちに寄り添う。 可愛い子たち。そろそろ動き出す頃かしら? (はじめ)ちゃんは身体が大きいわね。 あらあら、二葉(ふたば)ちゃんたら転がってお部屋からはみ出して… 今朝から何も食べてないのに、ちっとも辛くはないわ。 貧しいながらも楽しい我が家ってこういうことかしら? 今の私 し・あ・わ・せ…… バーン! 薄い扉が激しい音を立てた。 「チャコ、逃げるぞ!」 「どうしたの?」 「手入れだ!」 「何ですって?」 それは日陰者であるヤマトが一番恐れていたことだった。 「この子たちを安全な所へ」 「この子?どの子だ?捨て置け!」 「酷いわ。どの子も…ああ、せめて一番小さな百代(ももよ)だけでも……」 「バカ言え、今すぐ脱出だ。息を止めろ!」 「嫌ぁ~~~!」 泣き叫ぶチャコを抱きかかえ、ヤマトはもうもうと立ち込める煙を掻い潜って窓から飛び出した。 「(はじめ)二葉(ふたば)~!」 粗末な寝屋は煙に飲まれ何も見えなくなった。 「泣くな、チャコ」 なんとか山奥に逃げ延びたふたりだが、いくら慰めてもチャコの涙は枯れそうもない。 「ああ、百代(ももよ)がこんな姿に……」 黒い塊を抱き締め打ち震える。 「それは奴らが仕掛けたダミーだ」 「違うわ、私の可愛い子よ」 「目を覚ませ。俺達は今日、出会ったばかりだ」  ヤマトはチャコの妄想の扉をゆっくり押し開ける。  「頼む、俺を……俺だけを見てくれ」 プライドを捨てた男の姿にチャコの中の何かが目を覚ます。 「そうよ……出会ったばかり。子なんていない……」 「そうだ。子はこれから作るんだ。10人でも100人でも…… チャコ、愛してる」 「ヤマト、私も」 天蓋から洩れる月の光が、ふたりのシルエットを浮き彫りにする。 「今宵一晩をおまえと……チャコはヤマト・Gの妻に……」 「そのセリフどこかで……」 「奴らが見てた古い雑誌に……いや、気にするな」 「いいえ!」 チャコの虚ろな眼がパッと見開かれる。 「これで分かったわ。今のままじゃ幸せになれない。 あなたと真の幸福を得るためなら私、待つわ。いつまでも待つわ。 一夜限りじゃなく100年続く愛を育てたいの。 お願い、焦らないで。生まれ変わってまた出会いましょう」 「何を言う?今、別れても再会できる可能性なんか無いんだぞ」 「あるわ。私たちには応援してくれる読者の皆さんがいるのよ」 「……き、気付かなかった。 そうか……神様の願いはひとり一回。 ある筈のない再会は読者の皆のお蔭だったのか……」 ヤマトは唸った。 「そうよ」 チャコの目にみるみる生気が漲り、強いオーラが輝く。 魅惑的な鳶色の瞳はあなたを捉えて放さない。 「皆さん、どうか神様に祈ってください。 ふたりが理想の再会を果たせるように……。 あら……私ったら…… こんな所から失礼しました。 今夜、あなたのキッチンへお願いに上がりますから、 スプレー缶や煙の出る缶なんて決してご用意頂きませんように……」 了
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