30人が本棚に入れています
本棚に追加
俺には気になる娘がいた。
いつもこの時間に見かける茶色い頭の彼女……密かにチャコと呼んでいる。
ダークな瞳に堅く結んだ唇。
ブラウンに統一されたスリムなラインで颯爽と歩き、すれ違うと甘い香りが仄かに漂う。
仕事は元より毎晩、彼女を見たくて街へ出掛けるのだ。
人目を忍び、明滅するネオンを躱しながら獲物を探していると、通りの片隅に見慣れぬ建物があった。
ローヤルレッドの屋根にオシャレなフランス窓。
よく手入れされた植込みに白いフェンス。
レンガ造りの壁伝いに延びる緑の蔦。
小さなライトが窓辺の美女を浮かび上らせ、入口には芳しき香りが漂っている。
呪いの洋館じゃないかって?
いやいや、どう見ても明るく健全なカフェだ。
なんなら、ちょっとだけ冷やかしてみるか。
立ち止まる俺の前を女がスッと横切り、細長い足を館に滑り込ませた。
チャコだった。
最初のコメントを投稿しよう!