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「いつも君を見ていた。誰よりも美しい君を……」
この時とばかり、俺は話しかける。
しかし、返ってきたのは冷たい視線だけだった。
「君の笑顔が見たい。
俺の願いを叶えてくれないか」
「どうして笑えるの?」
彼女はキッと睨んだ。
「明日の朝には殺されてしまうのよ」
「泣くよりいいだろう」
「同じことだわ」
小さく震える背中に俺は語り続けた。
生まれ育った街の見事な景観
隠れ家の相棒ワモンの武勇伝
素晴らしい獲物を見つけた時の感動
チャコを初めて見掛けてから今まで熱い想いを募らせていたこと……
「ひとりじゃ……」
まるで聞いていない素振りの彼女がぽつり呟いた。
「ひとりじゃなくて……良かったわ。
私、大家族に生まれたけど、皆と合わなくて飛び出したの。
ずっと孤独で、誰も話しかけてくれなかった」
「そうか、俺もワモンと会うまではひとりだった。
良いことを教えてやろう。
明日、きっと新しい伝説が生まれる」
「どんな?」
「洋館で出会った者は永遠に結ばれる、と言う伝説さ」
「どういうこと?」
「生まれ変わって、また、必ず君に出会ってみせる」
「そんなことできるの?ヤマト」
「え、俺がヤマトだと何故?」
「見れば分かるわ。私はチャ……」
「知ってるよ」
「そう」
茶色い瞳が微笑んだ。
「俺達の祖先は3億4千年も前からいたんだ。きっと何度も何度も生まれ変わって来たはずだ」
「そうね 。私たち……何度でも会えるのね」
俺は黒く太い腕を伸ばしたが彼女の細いそれには届かなかった。
延長線上で交わり合う2つの掌を冷たい夜気のベールが包み込んだ。
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