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ぬばたまの夜道を走る。
俺はハンター。
狙った獲物は逃さない。
勘だけを頼りに禁断のエリアへ忍び込み、暗闇に目を凝らす。
いた……。
豆粒灯の下に茶色い頭が浮かび上る。
大きい……。
音も無く忍び寄り、背後から首に腕を回し糸を掛ける。
いつもなら無言で首を捻るが、つい、口が滑った。
「俺はヤマト。ここで出会ったが運の尽き。悪く思うな」
「ヤマト……ヤマトなの?」
腕に熱い吐息が掛かる。
そして、ぽたりと雫が……。
「……!?」
思わず緩めた腕を優しく撫でられる。
「私よ。チャコ……」
「チャコ?」
刹那、旋風が脳裏を駆け抜け、ふたりの想い出が走馬灯のように蘇った。
「ヤマト……」
振り向いたチャコの瞳から泉のように溢れる涙。
「チャコ……会いたかった」
力いっぱい抱き締め、柔らかい薄桃色の毛先を撫でる。
「ヤマト、私も会いたかったわ。今、全て思い出したわ」
「ああ、そうだ。俺はあの時、神様に祈った。
生まれ変わってまたチャコと会えるように……。
その時、神様の声が聞こえた。
願いを叶えてやる。互いの名前を聞いた時、前世の記憶が甦るだろうと」
「そうだったのね。嬉しいわ。さあ、早く……」
「ああ」
俺は再びチャコを強く抱き寄せた。
身に纏う物を一糸残さずふるい落とそうとする仕草にチャコがこの時を待ち焦がれていたと知る。
パチン!
突然、 眩しい光が室内を満たす。
彼女の見事なボディに目が眩むが、一刻の猶予もない。
「チャコ!」
「ヤマト!」
手に手を取り合い走り出そうとした時だった。
「きゃあーーー!」
絹を裂くような悲鳴の後、巨大な網状の板が叩きつけられ、ふっ飛ばされる。
「チャコッ……」
痛みに耐えながらも彼女の無事を確かめる。
「ヤマト……」
チョコは薄桃色の手を懸命に伸ばしてくる。
「きゃあ~、動いてるわ」
割れるような声が響きわたる。
「チャコ、動くな」
バシッ、バシッ!
全身をくねらせる俺は何度も打ちのめされる。
もはや、これまでか……。
チャコの泣き顔がだんだん霞んでいく。
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