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授業が終わるなり、大半の生徒が部活の為、或いはまだ友達と遊び足りないといった理由で学校に残る中、部活は帰宅部、放課後迄話す様な話題及び相手も特に無しといった綺月は早々に校舎を後にした。
何時もと大差ない、1人きりの帰り道。別段其れを寂しいとも虚しいとも感じる事はない。
1人のオレ格好良いとか、群れを成すなんて愚かしいとか、捻くれた事を考えてはいない。確かにそうやって孤独、もしくは孤高ぶりたい年頃には類される年齢だが、幸いにも綺月にはそうした趣味嗜好は無かった。お陰で無駄な黒歴史の生産は回避出来ている。
では友達がいないのか。確かに居ない。クラス内でも明るく振舞う方ではないし、滅多に笑う事もない。ではいじめか、嫌われているかと問われれば其れも違う。
周囲に誰も居ない1人きりの学校生活を順調に謳歌しつつ、綺月は、しかし其の実、かなりの人気者でもあった。
芸能人かと見紛う程整った相貌に、高身長。事実スカウトされた事は両の手足を用いても足りない。
運動神経抜群、成績優秀。何方に於いても上位の座を誰かに譲った事はない。
其処迄揃えば女子は勝手に騒ぎ、綺月の無愛想をクールで格好良いと黄色い悲鳴を上げる。
其処で人と滅多に接さないという1面がある為、男子は綺月が完全無欠ではないと親近感を持つ。
そして綺月の人気は揺るがぬ物になっていった。綺月がうんざりしようとも。綺月が素っ気無くあしらおうとも。
何故か黄色い声はあがり、下駄箱にラブレターは突っ込まれ、様々な遊びの誘いを受け、無駄に話を振られる。
うんざりだ。騒がしい。煩わしい。
しかしそうした不満以前に、綺月は心底から彼等を疑問に思っていた。
朝から飽く事なく騒ぎ、休む暇なく雑談を交わす彼等は、何がそんなに楽しいのだろう、と。何がそんなに面白くて、何が其れ程夢中にさせているのだろう、と。
綺月は全てに於いて無関心である。流行り物に関しても、話題のタレントに関しても、ドラマに関しても。
勉強、スポーツに於いても上位を譲った事はないが、関心はない。ただやってみたら、ただ義務的に作業的に教科書を開いていたら、其の結果が付随しただけに過ぎない為、そもそも関心を抱けよう筈もないのである。
或いは此れで、努力が実りました、という過去が記憶の中に存在していれば綺月の感性もまた、多少なりとも変化していただろうが。
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