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 何時もと違わぬ帰路。部活に参加する事もなく、其れ以外の目的で校舎に残る事もしない綺月(きづき)はホームルーム終了と同時、早々に帰ってしまうが、存外帰路で高校の制服に身を包んだ同年代と思しき人物は散見された。  尤もそうした生徒達全員が部活に無所属かと問われればそうではないだろうし、動揺に其の儘寄り道せず真っ直ぐに帰るかも定かではない。何人かで構成される集団が多い事から、恐らくゲーセンやカラオケ等の娯楽施設か、ハンバーガーやドーナツで腹を満たしに向かうのであろう。  時折そうした集団の馬鹿笑いや雑談に興じる声が、風に乗って、或いは其のあまりに大きな声量の為に綺月の耳迄届く事がある。  聞こえる会話の内容は所変わっても変化無く、昨今人気のタレントや昨夜のドラマ談義、多少下品な内容を織り交ぜた恋愛講義に、テストや教師への不満。  似通った話題を毎日毎日飽きもせず、よくもまあ続けられる物だ。其れもまるで今初めて聞いた内容であるかの様な反応を示して。  最近教室でも話題になっているドラマについても、綺月はそれとなく見た事があったが、見え透いた展開に其処迄盛り上がる意味は分からず、其処迄熱心に語る必要も感じられなかった。  まるで縁の無い他人の事とは言え、理解し難い気持ちは抱えつつ、何時もの様に自宅へ向かう綺月の耳に。声の音量調整機能が壊れているとしか思えぬ程大きな声が、時折起きるのと同じ様に此の日も届いた。 「じゃあなー!また明日!!」  しかも其の内容といったら。  態々大声を張り上げる必要等微塵も感じられぬ、ただの別れの挨拶。突如大きな音が聞こえた事に対する反射で向けた目線は、声の主を捕らえた。  元気良く、或いは幼い子供の様に自分の手を元気一杯に振っている。其の言葉や着ている制服から推測するに明日も会うだろう同級生に対し、大仰にも程がある挨拶だ。まるで此の先暫く会えない転校生がする様な度合いではないか。  やはり理解出来ない。呆れと混乱を同居させつつ、それとなく大声少年の目線の先を追ってみた。此の生徒に付き合う友人も、やはり綺月には理解し難い、理解を試みるのも無駄である人種だろうと、最早そんな分かりきった事は意識する迄もなく。  ただ先程大声に反応して視線が其方を向いた様に、あくまで無意識下、半ば反射的な行動で視線は声を掛けられた側へと向いていた。
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