そして私は砕け散る

　重厚な扉が鈍い音をたてて開き、薄暗い室内に光が差し込みます。
　一つしか無いランプの灯りに照らされた薄暗い部屋。その中に暮らす少女たちは、開かれた扉から現れた男に怯えたような視線を送っていました。整えられた顎髭が印象的な恰幅の良い男は、年齢は四十代半ばといったところでしょうか。男はベッドや床の上に座りこむ少女たちを、ねめつけるような視線で次々に見回します。煌びやかな装飾に飾られた豪奢な服の男に対して、少女たちがまとう麻の白いワンピースは一様に薄汚れていました。
　男はゆっくりとした足取りで進み、一番奥のベッド。その上の少女に声を掛けます。
「さあ、アリーシャ。私の部屋に行こうか」
　栗色の髪の少女は、小刻みに肩を振るわせながら小さく頷きました。
　それから男に手を引かれ、アリーシャと呼ばれた少女は部屋を後にします。残された他の少女たちは、何人か男に嫌悪を露わにした視線を送る者もいましたが、多くは気まずそうに顔を俯けています。しかしその表情には微かな安堵もまた滲んでいるのでした。
　静寂に支配された部屋。立ち去ろうとするマルーンの足についた鎖の音だけが、そこに響き渡っていました。