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プロローグ
肩を押さえた男が、耐えきれないようにがくりと膝を付いた。
床に広がった黒のロングコートが、まるで血だまりのように見える。事実、そのコートの端から、血が滴っていた。
黒い影の周りを、ふわりとピンク色の光が飛んだ。
『琥珀! しっかりして!』
いつもは鈴を振るようなその声が湿っているのに、ロングコートの男は笑ったようだった。
「んな、泣きそうな声、出してんじゃねぇよ…」
『だって、ボクを庇ったせいで、こんな…!』
「大したこと、ないって…。奴も、似たような、もんだろ…」
あちこちダメージを与えたはずなのに、あの身体で逃げていくとは執念深いとしか言いようがない。
しかしこちらも、此処までの怪我になるとは想定外だった。
ちらちらと、目の端に映る光が、だんだんと薄れていく。
「良いか。人間に、見つかるなよ…。ややこしいことになる…」
『そんなこと言ってる場合?! すぐ本部に連絡を取るから!』
格好を付けたわけではないが、周りの反対を押し切って強行したのにこの様だ。嗤われることを想像して、男は顔を顰めた。傷が痛むからではない、とやせ我慢を言ったところで、この状況では信じてもらえないだろう。
あの人がこれを見れば、きっと怒るだろう。まだ、会いに行くのは先だと思っていたのだが。
「上手く、いかねぇな…」
何もかも。
残された方は、つまらないから。
だから、出来るだけ、生きてやろうと思っていたのだけれど。
『琥珀!』
滴り落ちる血がさらさらと赤茶けた灰になっていくのを、残された相棒は呆然と見守るしかなかった。
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