うたた寝

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私は何を思ったのか、離れていく佳波さんの手を掴んでいた。 佳波さんが不思議そうに首を傾げた。 「どうしたの?」 「あ、の……」 私は言葉が出てこなくてただ佳波さんを見つめた。 どうして手を掴んでしまったのだろう。 反射だった。 ただ佳波さんがどこかへ行ってしまう気がして。 1人になるのが嫌で。 そのぬくもりが愛おしくて。 「ごめんなさい」 謝ることしかできなくて、手を離して俯くと佳波さんは私の頭をくしゃりと撫でた。 「大丈夫、どこにも行かないから」 それでもまだ顔を上げられない。 分かってはいるけれど……。 「亜夜」 名前を呼ばれて顔を上げると、微かに、ほんの微かに唇にぬくもりが触れた。 甘い香りはすぐに離れていく。 佳波さんを見上げると暗い中でも微笑んでいるのが分かった。 私は今何が起こったのか把握できてなかった。 頭が真っ白で、何も考えられなくて。 「え……?」 顔に熱が集まる。 「大丈夫?」 なんて普通に聞いてくる佳波さんをまともに見れなくて。 「せ、んせ……」 ついそう呼んでしまった。 初めてだった。 付き合いだしてから。 生まれてから。 初めてのキスだった。 何か言おうと口を開いても恥ずかしさで言葉が出てこなかった。
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