泣き虫エーちゃん

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 半ズボンから顔を出したヒザ小僧はすりむいて赤くなっていた。それはさっき、砂場でコーちゃんに投げ飛ばされた時にできた傷だった。 「いてて」  すりむいたヒザをさすると目の奥が熱くなった。どれだけ歯を食いしばっても、涙がポロポロとこぼれ落ちていく。沼のほとりの草むらで、僕は周りの草をむしっては投げた。草ははらはらと地面に落ちていく。  同じクラスのコーちゃんが相撲にはまりだしたのは、ゴールデンウィーク明けだった。コーちゃんのお兄ちゃん、ヨシくんがわんぱく相撲の地区大会で優勝したのがきっかけだった。  ヨシくんは六年生なのに、身長が一六八センチで体重も八十キロ以上ある。その上、運動神経も抜群だから当然の結果だった。  ヨシくんの活躍を見て、弟のコーちゃんは燃え上がった。 「来年はオレが優勝する!」  みんなにそう宣言すると、クラス中の男子に命令が下った。「塾や習い事のない男子は、放課後に砂場に集まること」と。  ヨシくんに負けず劣らぬ巨体の持ち主のコーちゃん。五年二組の中で反対できる男子は誰もいなかった。 「手を抜いたら、怒るからな!」  そういうとコーちゃんは、特訓と称して僕らと順番に相撲を取っていった。  順番を待っては投げられる。痛いだけで何にも面白くない。  特訓に参加する生徒は日に日に減っていった。みんなの考えた言いわけはいろいろだった。新しく習い事が始まるヤツ。親の仕事を手伝うヤツ。おじさんが入院してお見舞いに行くヤツ。特訓参加人数が減る。それはすなわち、僕がコーちゃんに投げられる回数が増えていくということだった。 「はぁ……」  ため息と一緒に悔しさがわき上がってきた。特訓が始まってから五日間。コーちゃんに勝てそうになったことは一度もなかった。実はそれが、なによりも悔しかった。  また涙があふれ出てきた。僕は近くにあった小石をつかんで立ち上がると、力いっぱい沼の中に投げ込んだ。 「イッター!」  沼の中から、叫び声があがった。僕はビックリして立ち上がると沼の中をのぞき込んだ。  水草が生えた薄暗い水の中から、ブクブクと泡が出てくる。泡の数はみるみる増えていく。    息をするのも忘れて、水面の泡を見つめていた。  早く逃げた方がいい。頭ではそう思っているけど恐怖で体が動かない。  黒い影が大きくゆれた。
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