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次の瞬間、水面を切り裂いて緑色のおじさんが出てきた。
「お前、なにすんねん!」
緑色のおじさんは、よっこらしょ、と言いながら岸にあがってきた。
僕はぺたりと草むらに座り込んだ。
おじさんは、僕より一回り小さい。全身は濃い緑色で肌はヌルヌルして、ところどころに藻みたいなものがついている。髪の毛は茶色くてボサボサ。だけど、頭のてっぺんだけ真っ白にはげていた。口は鳥のくちばしのようにとがっていて、手に水かきがあり、背中には大きな亀の甲羅みたいなのがついている。
背筋に冷たいものが走り、今まで感じたことのない恐怖が、腹の底から襲ってきた。
「ぅわあぁぁぁぁーーー!」
僕は耐えきれなくなって、大声を出して泣いた。
おじさんは得体の知れない生物だった。僕はこのおじさんに食べられる。そして、死ぬ。直感的にそう思った。
おじさんは頭をさすりながら、ユラユラと左右に揺れながらゆっくりと近づいてくる。目の前で止まると、首をかしげて僕の顔をのぞき込んだ。
おじさんの息は生臭い。恐怖で体は動かない。食べられて、死ぬんだ。そう思うと、涙は止めどなく流れた。
「ちょいちょい、まてまて。泣きたいのはこっちやで」
おじさんは困った顔をしていった。
「気持ちよう寝とったら、いきなり頭に石ぶつけられてんやから。見てみぃ、これ」
お辞儀するような形で、禿げた頭を見せてきた。
禿げ頭の真ん中に、まんまるで大きなこぶができていた。こぶのあまりの見事さに、泣きながら笑ってしまった。
「なに笑っとんのや! お前が作ったこぶやで! どアホウが!」
そういうと、おじさんは頬っぺたを膨らませながら、右手と右足、左手と左足を交互に上下させる、独特な動きでバタバタしながら怒った。その姿があまりに変だったので、さらに笑ってしまった。
「おじさん、その動きやめて。もうムリ……」
「なんも変なことはしとらんで。お前が勝手に笑っとるだけや。なにがそんなにおもろいんや……」
泣きながら笑い転げる僕を見ながら、おじさんは困った顔をしていた。
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