泣き虫エーちゃん

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「こんなところに一人で何しとったんや?」  僕が笑い終わると、おじさんは隣に座った。  おじさんは全体的に少し生臭かったけど、耐えられないほどではなかったのでがまんした。  おじさんにコーちゃんのことを話した。おじさんは聞き終わると、ゆっくり話し始めた。 「お前、なんちゅう名前や?」 「エージだよ」 「エージか。じゃあ、エーちゃんやな」  そういうと、おじさんはニカっと笑った。 「エーちゃんは、どないしたいんや?」 「どうしたいって……」  うつむきながら答えた。 「相撲なんてやりたくないよ。すぐ家に帰ってゲームやりたい」 「ほんまにそれでええんか?」  おじさんは、ゆっくり立ち上がりながら話を続けた。 「コーちゃんとやらに、やられっぱなしでええんか? ひと泡ふかせたろ、とか思わんのか?」  おじさんは、沼に向かって歩いていく。 「ムリだよ。コーちゃんとは体格が違いすぎるよ」 「柔よく剛を制すや」  おじさんはゆっくり振り返った。 赤い夕日に照らされた緑色の体は、複雑な色になって、もはや何色なのかよくわからなかった。 「じゅうよくごうをせいす?」 「しなやかに柔らかいもんは、硬くて強ええもんにも勝つっつー話や」 「ウソだよ、そんなの。硬くて強いのが、やっぱり強いよ」 「んじゃあ、エーちゃんはおっちゃんに相撲で勝てるん思うか?」  おじさんを見た。おじさんは僕より一回り小さいし、腕も足も細いかった。 「勝てるよ、きっと。おじさん小さいし」  そういうと、僕は立ち上がった。 「んじゃあ、いっちょう勝負やでぇ」  おじさんは腰を落として、両手を地面につけた。僕もおじさんの前に立って、両手のこぶしを地面につけた。 「見合って、見合って……」  おじさんは僕の顔をまじまじと見みると、少し間を空けてからいった。 「はっけよい、のこった!」  目をつぶって全力でおじさんにぶつかると、壁にぶつかったかとおもうぐらいビクともしなかった。そう感じた直後、壁みたいだったおじさんがいなくなって、僕の体は宙を舞った。
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