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「おどろいたな。それは、きっと河童だな」
「かっぱ? 妖怪の?」
「そう、妖怪の河童だ。昔、お父さんもおじいさんから『あの沼には河童がいる』と聞いたことがあったけど、まさか本当だったのか……」
「悪い人ではなさそうだったよ」
「そうか。でも、相撲で負けると尻子玉を取られるはずだったけど」
「しりこだまって何?」
「お尻の中に入っている小さい玉で、それを取られると人間は死んでしまうんだ」
「えっ、ほんとに?」
「尻子玉なんてないから大丈夫だと思うけど、あんまり沼には近づかない方がいいね」
明日も会う約束をしていることは、ぐっと飲み込んだ。
「そうだね。もう、沼には近づかないようにする」
最初におじさんを見たときの恐ろしさを、少し思いだした。怖くなってお湯の中にチャポンともぐった。
ご飯を食べた後、自分の部屋へ駆け込んだ。本棚から辞書を取り出すと、『河童』のページを開いた。
本当はリビングのパソコンで検索したかったけれど、お母さんにバレると明日おじさんのところに行けなくなる可能性が高いのでやめておいた。
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かっぱ【河童】
水陸両生の想像上の動物。身の丈一メートル内外で、口先がとがり、頭上に皿とよばれるくぼみがあって少量の水を蓄える。背中には甲羅がある。人や他の動物を水中に引き入れて生き血を吸い、尻から尻小玉を抜くという。
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「生き血を吸い、尻から尻小玉を抜く……」
辞書を閉じて、布団の中にもぐり込んだ。お父さんの話した通りだ。明日行くなんて、言わなきゃ良かった。
明日、もしかしたら生き血を吸われて、尻子玉を抜かれてしまうかもしれない。でも、行かないとコーちゃんには一生勝てない。
どっちにしたらいいか、結論が出ないまま寝てしまい朝を迎えた。
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