プロット全文

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もともと彼のラジオ体操は保険会社に勤めていた時の習慣にもとずくものだった。もともとラジオ体操自体、アメリカの保険会社が健康増進のために始めたものなのだが、そういう「伝統」が彼の勤めていた会社では重視され、一日のうち欠かせない儀式として定着しており、社員の前に立って体操をすることが支店長としてのステータスになっていて、それが退職した後でも晃司のプライドにもなっているのだった。 そこに、また一人の佐伯洋一という爺さんが引っ越してくる。それまで東京に住んでいて、妻が亡くなって一人になったので家を畳んで一人用のマンションで暮らすことにしたのだという。 彼と出会って、晃司は驚く。佐伯はかつての保険会社の同期だったからだ。それも晃司に出世競争で破れ、同じ年に窓際で退職して、それから十年以上消息は知らないままだったが、思いがけず再会したのだった。 晃司はかつての部下にして同期と再会して、自分の方が「幸福」な境遇にあるのに複雑ながら悪い気分はしなかったが、しかし佐伯がラジオ体操に出席し、のみならずリーダー然として前に立って体操するのにはひっかかった。 なんでおまえが前に立って体操を指揮するのか、とすでに会社とは関係なくなっているのにひっかかってしまう。 さらにもっと晃司にとってはひっかかることがあった。佐伯はきちんと体操を最後まで通してやらないのだ。なぜなのか聞くと、「疲れるから」と言うのだが、だったら最初からやるな、俺にあてつけているのかと腹が立つ。     
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