0.或る男の嘆き、過去の噺

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 彼女を慕っている訳ではない。ただ僕は…僕は彼女の命を奪った彼が許せず縁を切ったまでだ。それに目の前の彼女は「魂と依り代さえあれば死者を蘇らせる事が出来る」という。過去に戻る事が出来る『禁書』を探し、彼女の魂を捕獲するのが現段階の僕の目的だ。別に過去を変えたい訳じゃない。  …変えられるものなら、変えたいさ。だけど過去の改変は例え僕や彼女の様な書籍卿でも不可能──否、禁忌(タブ-)とされている。過去を改変した事による未来の代償がどうなるか分かったものじゃないからね。 「あら。もうお出掛け?」 「…あぁ。時間を操れる禁書が見つかったからね」 「フゥン。参考までに聞きますの、ソレの名は何と?」 「禁書名は〈巡る星々の海〉だって。まぁ禁書だからそう簡単には上手くいかないだろうけど」  『大法典』から持ち出すんだ、どの道バレるのには時間はかからない。『分科会』が僕の計画を妨害するのは目に見えている。 「! どうせバレるのでしたらこの国──『アクシーゼ』に行って下さいません? そこにアタシの気になっている人物がいると部下から聞きましたの!」  そう彼女は僕に地図と写真を広げて見せた。…それは見知った顔と見慣れた街。アクシーゼはかつて僕が住んでいた所だ。 「…構わないけど」 「ウフフ! お願いしますわ"海(カイ)"。これでこそアタシの右腕ですの」  僕は君を慕ってはいないんだけれどね。勿論彼女もこの事は知っているから先の言葉は建前なんだろう。適当にあしらって僕はその場を後にした。
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