0.或る男の嘆き、過去の噺

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 水を操るのは昔から長けていた。故に今の僕の魔法名もかつての魔法名も水に関するものだ。 「侵入者だ、捕まえ──ガハッ!?」 「何だこの水は…何処から来た!?」 「オイ何とかしろ! このままだと溺死するぞ!!」  ──さて。唯一無事に保管されていた禁書〈巡る星々の海〉は既に僕の手中にある。他の禁書は魔法図書館ことココ…「大法典」の破壊により禁書は「断章」となり世界各地に散らばってしまったらしい。 (かつての僕は、その断章を回収してたっけな)  邪魔者を渦で閉じ込めているとはいえ限度がある。今のうちにチャッチャッと呪文を唱えて過去に戻ろうか。別に彼女の願いを叶える必要はない。彼女の願いはあくまでも「ついで」というヤツさ。 「…『空想たる世界に──」 「指名手配No.1104。…かりそめの名は"神藤 海"。魔法名『深海を喰らう魔の怪物(ディ-プ・シ-・リヴァイアサン)』はアンタだね?」  本から顔を上げると大鎌を構え、フードを被った死神の様な人物がいた。…おかしい、いつの間にいたんだ。さっきまではいなかった筈なのに! 「オイ、この雑魚ぐらい始末出来なかったのかよ。それでも大法典の門番かアンタ達」 「う、うるさいぞ! というかお前こそ誰だ、ココは断りもなく侵入は禁じられているぞ!!」 門番の反応を見るに彼等が呼んだ訳じゃないらしい。 「雑魚にやられている輩が吠えてやんの。…さてと、アイツ等の代わりに僕が問う。──お前、これから何をやろうとしたのサ?」 「…敵が自分の目的を易々と答えるとでも?」 「そうかい。…ならこうしてやんよ」  彼は僕の首の近くまで鎌を──刃を持ってきた。成程ね、答えなければ首を斬るという訳か。 「こうすれば恐怖で目的を話してくれるって先輩が教えてくれたかんね。大丈夫サ、目的次第ではアンタを殺しはしない」 「…過去へ行きたい、って言ったら?」 「変えたい、じゃなくて、行きたいだけ?」  それだけなら構わないと鎌を下ろす。そして直ぐさま僕が持っていた禁書を奪ってビリビリに引き裂き〈断章〉へと変えてみせたのだ。…えっ、何してるの? 「あのね、アンタを殺しはしないとは言ったのサ。だけど目的を果たさせてやるとまでは僕言ってないぜ? 精々〈断章〉回収頑張りな~」 「待った待った待った」 「ぁあ?」
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