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 おれたちへと繋がる歴代の先祖に処女や童貞はいない。  そう高らかに言ってのけたのは、セーラー服から透けるブラ紐や階段でひらつくスカートに、豊かな妄想と猥雑な期待を膨らませる高校時代の親友だった。そいつは得意満面だった。よく覚えている。  しかしながら猿のように盛る青春時代を終え、人生のパートナーと二人三脚する現在のおれは、かつての親友の迷言に失笑しながらも、複雑な想いを抱いていたりする。  ◇ 「ねえ。結婚の件は、ちゃんと美希さんと話し合ってくれたの」  世帯主である美希が不在の三LDKマンションで、おれは百万回目の詰問を受けていた。ついさっき、お袋が地方の実家から押し掛けてきたのだ。煎餅やらお茶菓子の手土産をどっさり携えてきたところを見るに、持久戦も覚悟のうえらしい。 「私もね、小姑みたいなことは言いたくないわ」  おれを生み育ててくれたお袋をまえに、海苔が巻かれた醤油せんべいに歯形を入れる。お袋も小言を零さずにはいられないくらいには老けた。頬にはほうれい線がくっきり浮いている。     
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