マリー・ゴーランドと砂糖菓子の蠅

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 朝八時にメイクを済ませた愛美は、窓際のレースカーテンの位置を調整していた。片手で持ったスマホの画面を凝視しながら頬にぴったりとピースサインをくっつける。カーテンの隙間から覗くベランダのウィンターコスモスが絶妙に映り込む位置を発見し、カメラボタンに触れる。静かな部屋に、無機質で大きなシャッター音が響く。表情を変えてさらにもう一枚、二枚。その場にしゃがみ込んで画像補正アプリを開き、気に入った写真を選んで加工する。画面に広がる愛美の肌は白雪姫のように美しく輝く。さらにスタンプと呼ばれる機能を呼びだして、ティアラのイラストを自分の頭の上にちょこんと乗せる。画像のサイズを確認すると、愛美は赤紫色のアイコンを叩いて短い文章に写真を添えて公開した。 「今日もブサイク顔でゆーぅつ…… #自撮り女子 #ポトレ #変顔 #拡散希望 #お姫様になりたい」  さらに水色のアイコンを押して「#雰囲気嫌いじゃないよって人RT #ちょっとでもいいなと思ったらRT」の文章も追加して再投稿する。投稿したと同時に、誰かも判らないアカウントから返信が来る。 「ゆーぅつなあみちゃんもかわいーよ!」  愛美も直ぐに返信する。 「ありがと! 元気でた!」  無表情のまま愛美は「かわいい」と返信を送って来る連中に答え続ける。そしていいねの数がじわじわ増えていくのを見て、ようやく口元をほころばせた。けれど、画像の拡散を表すRT(リツイート)の数字の伸びがイマイチだったので、また無表情に戻った。
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