リボンをつけてもいいですか?

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ごねる私に、唐突な質問だった。 姉は揶揄するような目で私を見つめる。 「ちょっとは歩けよ、豚」 「姉さんこそ歩けば?」 もう慣れっこなのですかさず言い返す。どうせ姉には勝てないとわかっていても。姉は淡々と、 「私はもうたくさん歩いたから。あんたはカツカレー消費してきなよ」 「姉さんだって今から食べるんでしょ」 「夕飯にカツカレーなんて食べるわけないじゃん。朝食べるの。ほら、早く行きなよ、早くしないと養豚場に送るよ」 押し付けるように千円札を渡される。私はもう逆らえず、黙って家を出た。 外の空気は夕方よりも寒く、私は身震いする。どうして姉は食べずにいられるんだろう。夜ごはんを食べないとお腹が鳴って眠れない。悲しい気持ちになったりいらだったりすると気のすむまで食べなきゃ感情の高ぶりを押さえられなくて眠れない。 こんな風になってしまったのは、小学二年生のあの日からだ。学習発表会という、小学生の文化祭のようなイベントの日。あの日まで私は楽しくご飯を食べて楽しくおやつを食べていた。今みたいな卑屈な感情持ったことがなかった。でもあの日。学習発表会のあの日。私はピンクのリボンを頭につけて学校にでかけた。教室に入るなり、男子の一人が私を指差して、言ったのだ。 ――なんでブスがリボンつけてるの? 無邪気な言葉だった。
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