覚えていますか?

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それは、せっかく笑わせようとしてくれたのに、笑わなかったことについて言ったのではなかった。 三人とも、そんな僕の気持ちは分かっていただろう。 少し困ったように顔を見合わせた。 でもその後、三人を代表するかのようにシンちゃんが僕の前に出て、言った。 「大丈夫。お前のことは、俺たちが守ってやる」 そして、僕の肩に手を置く。 顔を上げた僕の目を見て、笑う。 「俺たちみんなが揃えば最強なんだから」 僕には、先ほど山の向こうに消えていったはずの太陽が見えた気がした。 しかし、その時だった。 「君たち、こんなところで何やってるんだ」 突然、そんな声が聞こえて、振り返った。 すると向こうから、一人のおまわりさんが走ってきていた。 「ワタル、逃げろ!」 咄嗟にシンちゃんが叫んだ。 「でも」 「いいから行け!」 シンちゃんはそう言うと、肩に置いていた手を退かし、僕の背中を押した。 それでも走り出さない僕に、サトルくんとケンちゃんも叫ぶ。 「行け!」 「逃げろ!」 だから僕は、走った。 一人きりで、逃げた。 「どこへ行くのか」 「これからどうするのか」 分からないまま。 何度も躓いて転び、膝や肘、顎にまで血が滲んだ。 道なき道を通るため木の間を抜けた時、枝に引っ掛けて服も破れた。 それでも僕は逃げ続けた。 ただひたすらに、走り続けた。
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