覚えていますか?

5/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
どれくらいが経っただろう。 体力はとっくに限界を迎え、いつもの倍は重くなったように感じる足はガクガクと震えていた。 「もう走れない」 ちょうどハッキリとそう思った時、足元がもつれて転んだ。 もう何度目だっただろう。 これまでは、それでも立ち上がってきたけれど、もうその力も残されていなかった。 そのまま蹲るように座り、呟く。 「シンちゃん……」 返事はない。 「サトルくん……!」 止まっていたはずの涙が込み上げてくる。 「ケンちゃん!!」 僕は泣きながら叫んだ。 だけど誰も現れてはくれない。 「揃えば最強」のはずのみんなは、誰一人居ない。 そう思うと涙が止まらなくて、泣き続けた。 辺りはもうすっかり夜になっていた。 「どうしたんだい」 ふと聞こえた声は遠く、僕は最初、幻聴だと思った。 でも、確かに近づいてくる足音に、それが幻などではなく人間なのだと分かった。 しかも知らない大人だと。 だから僕は「逃げなきゃ」って思った。 でももう、足は動かなかった。 「こんなに汚れて、怪我もしてるじゃないの」 駆け寄ってきたその人はそう言って、僕の前に屈む。 そして僕の顔を覗き込むと、僕に手を伸ばした。 怯えたようにその手を避ける僕。 それでもその人は、手を引っ込めようとはしなかった。 「怖かったね。もう大丈夫よ」 そっと僕を抱きしめると、優しくそう言った。 半年後、その人は僕の養母となった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!