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ああ。 ああ、来た。この感覚は、来る。 ぞくりと背中を震わせる感触に、俺──井上伸也──は、身構える。 さっき、ちらりと視線の端に捉えたもの。悲惨な現場写真。それに、今度はしっかりと視線を向ける。 仰向けに倒れる女性。喉が切り裂かれ無惨に血にまみれている。右腕を真横に、左腕を軽く上に曲げるようにして投げ出された肢体。見開かれた虚ろな眼球はもう命を宿しておらず、唯一の慰めはその表情に苦痛が表れていないことか。 それを。 はっきりと見つめて。 俺は、聞いた。 ──違う、と。
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