家政婦の憂鬱

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 まるで武家屋敷のような重厚な門構えの前で僕を出迎えてくれたのは、無愛想な女性だった。地味な色のワンピースに白いエプロン姿。どうやら彼女はこの家の家政婦のようで、いらっしゃいませと言って僕を門の中に招き入れてくれるのだが、なぜかその表情は陰鬱で、とても歓迎してくれているようには見えない。  そんな対応に恐縮しながら、僕は先導してくれる彼女の後に続く。門をくぐれば、そこは庭だとは思えないほどに鬱蒼とした木々が並んでいた。その間を縫うように続く小道を進むうち、ようやく屋敷が見えてきた。あの門構えにしてこの屋敷ありといった堂々たるものだ。  我が家のリビングよりも広い玄関ホールで、この屋敷の主人が待ち構えていた。僕が勤める会社の取引先の社長だ。どういう理由かは未だに不明なのだが、僕はこの社長に気に入られたようなのだ。だからこうして自宅の夕食に招かれた次第だ。 「よう来た、よう来た。まあこっちへ」と、ご機嫌の社長は、長い廊下を奥へと進む。  通されたのは旅館の宴会場かと思えるような和室だ。真ん中に机が置かれ、その周りに座椅子が幾つか並んでいた。社長に勧められるまま僕はその一つに腰を下ろした。  机を挟んだ対面に陣取った社長は、襖の向こう側に向けて大声を上げた。 「おい、なにしてる。早く来い」  その声に「はーい」と返事をして現れたのは、酒と肴を載せた盆を手にした女性だった。 「私の妻だ」  その言葉に僕は思わず社長とその奥さんを見比べる。社長はすでに70は越えているはず。それに対して奥さんは僕より少し上の30代後半くらい。ずいぶんと若い嫁をもらったものだ。しかし特筆すべきなのは奥さんの色気だ。魅惑的な眼差し、豊麗な体の線、婀娜めいた微笑み。この部屋に入って来たときから漂う色香に目が眩みそうだ。高齢の社長にしてみれば、こんな奥さんを満足させるのもさぞ大変だろうと下種な考えが頭をよぎる。 「食事の準備ができるまで、お酒でも召し上がれ」  奥さんはそう言うと、僕の隣に膝をついた。スカートのスリットが割れて白い大腿部が顔を覗かせた。僕の目が思わず吸い寄せられる。その視線を悟られたのではと慌てて奥さんの顔に目を向けると、彼女は無言のまま色っぽく微笑んで見せた。 「さ、一杯どうぞ」  差し出された杯を僕が手に取ると、彼女はお酒を注いでくれた。照れ隠しにそれを一気に飲み干した。
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