0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「まあ、お強いのね」
彼女は僕の膝にそっと手を置いた。社長からは見えない机の下で。思わず体が硬くなる。
それからしばらく酒を飲み、ほろ酔い気分になったところで料理が運ばれてきた。高級料亭かと思わせる豪勢な料理だ。本来ならそれらを存分に味わいたいところだが、その日はそれどころではなかった。
なぜなら、酒の席から始まって食事の間中、奥さんがことあるごとに僕の体に触れてくるからだ。最初は社長の目を盗むように机の下で僕の太ももを撫で回していたのだが、彼女の行動は次第に大胆になり、社長がトイレで席を外した時などは僕の胸板に指を這わせる始末。挙句すっかり酔いの回った社長が居眠りをし始めると、
「最近めっきり弱くなっちゃって……一度寝ると何があっても朝まで起きやしないわ」
奥さんはそう言って艶かしく僕の耳元に息を吹きかけた。
なるほど、そういう事か。若い妻を満足させるために社長が僕を呼んだのか?それともこの奥さんが僕を指名したのだろうか。もしかしたら僕が好みのタイプなのかもしれない。あれこれ妄想が膨らんでいく。酔いも手伝ってか、もう我慢できないとばかりに僕が奥さんを押し倒したその時だった。
「なにをしてる」
充血した目で社長が睨んでいた。飛び上がって正座をした僕に、社長は襖の外を指差した。
「とっとと出て行け」
大慌てで部屋を飛び出すと、そこには無愛想な家政婦が待ち構えていた。玄関へと先導する彼女の後をついていくうちに、先ほどまでいた部屋の方から奥さんの艶かしい喘ぎ声が聞こえてきた。驚いて振り返る僕に、家政婦は不機嫌に言い放った。
「奥様は、嫉妬心を煽ることで旦那様を奮い勃たせているのです。これはお客様には迷惑な話でしょうが、私にとっても迷惑なことなのです。なんせ、興奮冷めやらぬお客様の中には、帰りがけに私に手を出そうとする方がいらっしゃるもので……」
なるほど。この家政婦が無愛想なのは、そういうことだったのか。
最初のコメントを投稿しよう!