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律は、虐げられてきた子供の頃と違い、キラムに入って希やジュリに出会って、今まで自身を鍛えて戦って強くなれたという自信があった。
なのに、守るべき大切な人に庇われて、傷を負わせるほど愚かで弱いのだという事実。
「…大丈夫ですか?」
木が植えてある煉瓦作りの縁に腰掛けて、医療班から応急処置を受けるジュリを、隣で棒立ちになり、見つめて青ざめた表情で固まっている律に、怪我をした張本人が聞いてくる。
大丈夫かはこっちのセリフだとか、傷は深いけど筋肉が銃弾を弾いてくれたみたいで良かっただとか、心配させない為の軽口で返したいのに、口を開けば、自分が楽になりたいが為の何の価値も無い謝罪の言葉が漏れてしまいそうで、ただただ無言で頷いて、ジュリに背を向け、
「今日は傷の手当てを受けたら、家に帰って下さい。報告や書類作成は僕がしておきます」
感情を悟られまいとジュリに対してやめた筈の敬語が出てしまう。
「っ…ですが…」
尚も食い下がるジュリに、
「先輩命令ですっ」
強い語調で突き放し、
「お疲れ様でした」
努めて柔らかな声の調子と、少しばかり振り返って、なるべく自然に見える労いの微笑を浮かべた。
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