第5章

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「違っ…」 本心を見抜かれて大きく身体を震わせて否定し、希の腕の中から逃れようとしたが、見かけよりも力強い腕は許してはくれず、 「嘘ぉ、良いんだよ、素直になって。彼が妻や娘に笑いかけて、幸せそうな姿を見ていて、ちょっともココが痛くなかった?」 ココといって、背後に回した手の平を背中から心臓がある辺りを撫でる。 否定して、首を振る。 「本当に?」 ジュリが妻と娘にだけ優しく穏やかな瞳を向けて、全てを賭けても守りたい幸せを持つという事実を、律は、幸福に想いはすれど、ジュリのそんな眼差しを与えられて羨ましいなどと、ましてや、その守りたい幸せの中にいるのは、何故律ではないのか、自分ならば、守られるだけではなく、ジュリを守るのに、などと思ったことは無いし、思ってはいけない。 なのに、希の言葉に心の隅の見えない部分が、ざわざわする。 「ほん…とうに…」 「嘘吐きぃ、そんな表情して言っても説得力無いよ。可愛い子だなぁ。じゃあさぁ、ジュリくんを殺しちゃおうよ」 ジュリくんを殺しちゃおうよ、の部分は大きな声ではっきりと言った希。 当然、ジュリにも部下達にも聞こえただろう。 「えっ?…ころ…す?」
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