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希は部下に命じて、銃を受け取り、弾と安全装置の確認をしてから、優しく律の手を取り、握らせる。
いつも律が使っているものと同じ型のそれは、手に馴染むどころか、全く別物という気がして、握っている手すら、自分の手だという認識が薄れてきた。
「あとは、ジュリくんに向けて引き金を引けば良いだけだ。さあ、律くん」
銃口をジュリに向けたくは無い。
無いのに。
「見てごらん、ジュリくんの律くんを見る目。あの目はちっとも律くんを愛して無いよ。それこそ憎しみ、嫌悪感だ。でも、彼の娘や妻を誘拐したのは俺だからねぇ、俺に向ける負の感情の方が強いんじゃ無いかなぁ。だとしたら、律くんへの憎しみや嫌悪感はいずれ風化しちゃうかもね。ジュリくんは律くんを殺したいほど憎んでるわけじゃ無いだろうし、元凶の俺なら兎も角。そうしたらさぁ、きっと律くんに対するジュリくんの想いは、無関心だよねぇ。好きになる事も嫌いになる事もない、無だ」
律にしか聞こえない、希の囁き声が、床を向いていた銃を持つ腕を操りでもしてるかの如く、ジュリの頭を狙って持ち上げていく。
「もしも、俺がジュリくんの家族や親友を彼に返したとして、無関心になった律くんを彼はもう二度と…」
銃口を挟んだジュリのギラつく両の目は、臆する事なく律を睨んでいる。
グリップを強く握りしめて、重たいトリガーへ掛けた指に、力を込めていく。
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