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「こらこら、律くん、売れと言いながら傷付けないでよぉ」
「…すみません」
希は律の頭に手を置き、ぽんぽんと撫でて、ジュリを見る律の瞳を覗き込み、やがて、
「…そのゴミを見るみたいな目、最高。いやぁ、律くんが吹っ切れたみたいで良かった、良かった。じゃあ、律くんの言った通りにしようかなぁ。誰か手錠を持ってる?護送車に乗せるのに念のためねぇ」
「僕持ってます」
律は手錠を取り出して弱いと言われて、湯気が出てるんじゃ無いかってほど怒気を露わにしているジュリに手錠を掛ける。
「鍵をどうぞ」
ジュリを連行する希の部下に持たせた。
「無駄な抵抗は考えない方が良いよ。だって今のお前は弱過ぎてすぐ殺されるから。妻と娘は生きているみたいだから、死んでも会えないよ」
「そうそう、妻と娘と親友くんは上手くやれてればご主人様の元で何年も大切にしてもらえるからねぇ」
「だってさ、良かったね。大切にしてもらってるんだったら何年かしたら、今は取り戻せない幸せってやつを味わってるかもよ。じゃあね、ジュリ。本当に馬鹿な事は考えたらダメだからね」
子供に言い聞かせるみたいな優しい声と仕草で、頬をひと撫でして乱れている服の襟を直してやった。
ジュリは、律の顔へと唾を吐きかけ、
「くたばれっ」
と言った後、希を睨みつけて、希の部下二人組みに連行されて行った。
「唾を吐きかけるなんて酷い事をするねぇ。はい、これ使って」
柔軟剤の香りがする水色と黄色のチェック柄のハンカチを渡されたが、律には、愛していたジュリが残した最後の贈り物を拭ってしまうのを、惜しく感じられた。
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