最終章

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ドアのガラスから覗けば、見えるのは営業しているのかと疑いたくなるほどの、僅かな明かりが灯されただけの店内。 見渡した限り、手前の方には人影が見えなかったから、待ち合わせ相手である情報屋はまだ来ていないか、奥の方に座っているのだろう。 ドアを開ければ、頭上から店内へと涼やかな鐘の音が鳴り響く。 「いらっしゃいませ」 静謐という言葉がぴったり当てはまるバーテンの挨拶。 音楽なんてあまり聞かないが、懐かしい気がするBGMが店内に優しく降り注ぐ。 「どうぞ、お好きな席へ。ごゆっくりお過ごし下さい」 バーテンの声に促されて奥へ進むと、そこには情報屋では無く、とても見覚えのある忘れたくても忘れようの無い人物が頬杖をつきながら夜の世界には似つかわしく無い、真っ青に晴れ渡った空色のカクテルを飲んでいた。 「やあ、ジュリちゃんっ、久しぶりぃ!元気だったぁ?俺も元気ぃって聞いてないねぇ、いやぁ、会いたかったよー愛しのジュリちゃんっ!!」 あの頃より伸びた銀髪を揺らして笑い、 「ほらほらっ、突っ立ってないでこっち座りなよ」 と言っておいでおいでと手を振る男。
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