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出席したのは、市の関係者と故人の息子のみ。故人には他に親類が居なかった。
「全く、たかが火事で死人が出るとは…」
「後処理をする方の身にもなって欲しいですな。これだから現場の人間は…」
読経が続く中、ヒソヒソと話し声が響く。とても葬儀中にされる会話とは思えないが、それを咎める者はいない。
「まあ、肉親が一人だったのは不幸中の幸いでしたな」
「本当に。高校生のガキなら、金で黙るでしょう」
隠す気があるのか無いのか。止まらない声に喪主である高校生は俯き、歯をくいしばるのみ。
やがて読経も済み、遺体は荼毘に附された。集まった者達はそれぞれ散っていく。
ただ一人残された高校生は途方に暮れていた。住んでいた家は、市の職員の宿舎のような場所だったのだ。
父親が死亡した以上、そこに住み続ける訳にはいかない。
もうすぐ高校を卒業で、父親の後を追い消防士になろうと考えていたがその気も失せた。
「ちょっと話があるのだが、良いかな?」
そんな彼に話しかける者がいた。黒いスーツに黒いサングラス。いかにも怪しい。
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