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倉科の声が蘇る。
『バイバイ』
ふっと気持ちが、暗く沈む。
いつもは『またね』って別れていたのにな。
「電話、かけなおした?」
洗濯物を取り込んでいた母親が尋ねる。
「電話?」
「鳴ってたよ。何回も」
飛び起きて、携帯電話を探す。
着信履歴があった。倉科から、1、2……5回も。
玄関を飛び出し、なんとなく人目を避けて、マンションの裏手に回る。
焦る気持ちを押さえながら、明るさを求めて、すぐ近くのコンビニの前に移動する。
倉科にかけると、すぐに出る。
「電話、くれた?」
「貴田! 大丈夫だった?」
何のことを尋ねているのか、一瞬ぽかんとしてしまった。
「アレルギー出なかったか? マフラー、あの子からもらったんだ。
使ってみせたら喜んでたから、嫉妬、してないと思うんだけど」
「あ……」
彼女に嫉妬させないために、「バイバイ」って言ったんだ。
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