30人が本棚に入れています
本棚に追加
私は深く呼吸する。
「倉科。もう、アレルギー出ても関係ない」
「でも、苦しいんだろ?」
「ううん、もう大丈夫。ちょっと怖いけど、大丈夫。
いま、どこ? 倉科、会いたい」
そう言った途端、プツッ、と通話が切れた。
しんと静まり返った世界。何が起こったのかわからない。
混乱で頭がぐるぐるしてくる。どうしよう。かけなおそうか。
それとも、これって、拒否られたってこと?
するりとコンビニの自動ドアが開き、中から人が出てくる。
「じゃーん」
倉科だった。パーカーのポケットに手を突っ込んでいる。私は息を飲む。
「そこにいたの!」
思わず笑ってしまう。
「大丈夫なのか、アレルギー」
倉科は、唇を真一文字に結び、念押しする。
「うん」自分の嫉妬心に比べたら、ほかの人のなんて可愛いものだ。
「倉科。明日、一緒にお昼食べよう」
「おう」
倉科は、ポケットから缶コーヒーを取り出し、一本くれた。
じんわりと、温かさが手の中に広がる。
ずっと握っていると、熱さでちょっぴりだけ、手のひらがかゆくなる。
「楽しみだなあ。早く明日になんねーかな」
思わず空を仰ぐ。
すでに藍色の帳が降り、三日月が沈んでいくところだ。
むずがゆさが増す私の手を、倉科の手がすっぽりと包み込んだ。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!