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「俺、貴田としゃべってみたい。ちょっとでいいから。
貴田だけなんだよ、ちゃんとしゃべったことないの。俺、ヤなんだよ、そういうの」
どういう思考回路してるんだ。
しゃべったことないから、しゃべってみたい?
ヤなんだとか言われても、困るし。
すでに首筋にかゆみを感じる……あ、もう完全に注目の的。
「……痛い」
あ、ごめん、と力を弱めるが、離してはくれない。
心臓がドキドキと高鳴り始めた。まずい、ギャラリーができつつある。
考えろ。なんとか、この男の視界から私を消さなくては。
かゆみが体を這いのぼる。
ああ、早く早く。何か言わなくちゃ。
「ええと……ごめん。私、倉科のこと、嫌いなんだ! ムカつくの!」
倉科の顔が曇った。周りの人間も息を飲む。
だって、しょうがないんだ。
そう言い聞かせたけど、胸がぎゅっと痛くなる。
どくどく、どくどく、こめかみが脈打つ。
私はかばんを抱きかかえ、逃げ出すように校舎を後にした。
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