【嫉妬アレルギー】

9/22

29人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
 体をかかないように、歯を食いしばって帰宅する。  ひとまず冷蔵庫の氷を、熱を帯びている場所と、リンパ腺のある脇などにあてがう。  ひどい自己嫌悪を感じ、気持ちが浮かない。  症状が出るのがいやで、倉科を傷つけてしまった。  彼の善意を、仇で返したのだ。  『嫌い』とまでいう必要はなかった。  もうちょっとソフトな、オブラートで包んだ表現をなぜ思い付かなかったのだろう?  自室のベッドの上で、かゆみ止めクリームを塗りながら、考える。  倉科の突発的な行動。 (しゃべったことないから、しゃべってみたい、か)  自由で羨ましい。  話したい人と話して、やりたいことを思い切りやってみるなんて、私にとっては考えたことすらない贅沢だ。  すっかり暗くなった窓の外に、ぼんやりと視線を移す。  アレルギーがなかったら、私は倉科と一緒に帰っただろうか?  そんな空しい考えが浮かんだのも初めてだった。  この体質とは死ぬまで付き合うことになると、諦めていたから。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加